自律型人材の育成

人的資本経営が求められる背景として、VUCAの時代と言われ、経営環境が目まぐるしく変化する現代においては、人材面の課題に対してスピーディーに向き合うことが不可欠であり、具体的な人材戦略を構築する上で重要なことは、環境変化を読みとりながら、組織の目標達成のために自分の意志で考えて行動ができる「自律型人材の育成」です。

自律型人材の特徴とメリット

自律型人材は、いわば「上司から指示されたままに動くのではなく、組織が目指す方向性を十分に理解し、自ら判断して行動できる人材」の総称であり、特徴的な思考行動を兼ね備えています。

■組織志向
まず、彼らは組織はどこに向かおうとしているのか、組織に貢献するために何を行うべきかを自分で考えて行動します。自分に与えられた役割を理解していますので、常に高い目標を設定し、自己のスキルアップに対しての意識が高いのが一つの特徴です。

■責任行動
そして、責任感を持って行動できることがもう一つの特徴です。自分で考え判断して行動するので、必然的に責任感が強くなり、自らの行動を律することを忘れません。従って、目標達成に対する意識も高く、PDCAを回しながら周囲を巻き込んでいきます。達成に向けて障害が発生すれば、プロセスの見直しも厭いません。

意志反映
そして、自分の考えや価値観、信条などが確立しているため、それらを大切にしながら物事を判断し、周囲に流されることなく自分の意志を仕事に反映しようと行動することも特徴であり、独創性あるアイデアや自分らしさ溢れる成果、組織内の変革などが期待できます。

このように、自律型人材は、上長からの指示が無くても、組織の方向性を見定めながら、自分から行動を起こしますので、次のようなメリットが挙げられます。

①企業活動がスピーディになる
②管理職の負担が減る
③組織の目標達成志向が強くなる
④独創性あふれるアイデアが生まれる
⑤他の社員のロールモデルとなる

自律型人材の育成ポイント

①人材要件の定義
育成に取り組むに当たり、まず自律型人材はどういった人材なのか、定義づけをする必要があります。例えば、「人的資本経営推進の中核を担ってもらうべく自社のパーパスや、経営戦略と人材戦略の連動を理解し、自ら体現行動を主導できる人材」などを設定し、目標設定や業務内容、行動計画に落とし込みます。

②コンピテンシー設計
既存の社員の中で、自律型人材と言われる人物を選び出し、ロールモデルとして位置付けることも有効です。その場合、実際の思考行動を分析し、成果に結びつく行動をコンピテンシーとして抽出し、実際の人材育成に活用することが重要です。

③心理的安全性の確保
失敗を恐れたり、周囲から否定されたりすることに不安や恐怖を感じるなど、自然体で行動できる環境にない場合、人は主体的、能動的な行動を避けようとします。失敗を糧にする、意見や提案を前向きに捉えるなど、心理的安全性が確保されて初めて人は自律的に仕事に当たろうという意欲を持つことができるのです。

④パーパス、理念、方針の理解
自律型人材を育てるためには、会社のパーパス(存在意義)、経営理念、そして戦略・方針を正しく理解させることが重要です。大きな方針が腹落ちし、自己のパーパスと整合性がとれて初めて、真の意味での自律的な行動をとることができるのです。

⑤評価体系への組み込み
自律的行動は容易にできることではありませんが、再現性がなければ育成課題をクリアしたとは言えません。一つひとつの自律的行動を振り返り、効果の測定や阻害要因の抽出、そして成果の評価をしっかり行ったうえで行動レベルの向上に活かすことが重要です。

⑥マネジメントの質の向上
部下のことを信用できず、マイクロマネジメントの習慣が染み付いていると、いつまで経っても自律的行動は望めません。また、険悪な雰囲気やコミュニケーション不足が職場に蔓延っていても同じです。任せる仕事のレベルを少しずつ上げたり、責任ある仕事を任せるなどマネジメントにも工夫が求められます。