経営基盤強化

人的資本経営においては、持続的な企業価値の向上を図る上で「経営戦略と人材戦略の連動」が最も重要であることは既述の通りですが、その連動のイメージを具体化する必要があります。

これに関して、人材版伊藤レポートでは、以下の流れで連動のストーリー作りを参考として示しています。

・企業理念、企業の存在意義(パーパス)の明確化
・経営戦略における達成すべき目標の明確化
・経営戦略上重要な人材アジェンダの特定
・目指すべき将来の姿(To be)に関する定量的なKPIの設定

ここでは、そのストーリーを確実に実践するべく、人的資本を形成する主要ファクターとして「人材戦略」「組織マネジメント」「企業文化」の3つをベースに、人的資本経営における基盤強化の施策を考えます。

出所:株式会社エトワール

人的資本の基盤強化策を考えるに当たっては、先の人材版伊藤レポートに掲載されている「変革の方向性」が参考となります。

出所:経済産業省「人材版伊藤レポート」(令和2年9月)

上図は、人材戦略や人材マネジメントの変革の方向性を示しています。現代はVUCAの時代と言われるほど経営環境が目まぐるしく変化する中で、人材面の課題に対してスピーディーに向き合うことが不可欠ですが、持続的な企業価値の向上に向けては企業理念やパーパスまで立ち戻り人材戦略を変革させる姿勢、更にはこれまでの成功体験に囚われることなく、企業も個人も柔軟に変化に対応しながら想定外のショックへのレジリエンスを高めていく変革力が求められるのです。

主な経営基盤の強化策

こういった変革の方向性を踏まえ、人的資本経営の基盤強化に向けた施策をご紹介します。

①人材ポートフォリオ
まず、最初は、人的資本経営における重要な施策である人材の確保や配置、人材育成について、経営戦略との連動の観点では、従来の経営のような感覚や経験に頼ったものではなく、事業目的に適った戦略的、論理的なKPIとモニタリング、アクションプランが伴ったものとして、必要な人材の質と量を明らかにする必要がありますが、これは動的な(事業戦略に連動した)「人材ポートフォリオ」の構築です。

②ジョブ型雇用(人事制度)
このような経営戦略から導き出した人的資本経営は、企業活動の主役である人材を中心に据え、必要な人材像を特定し、人材の獲得や育成への投資が適切かをモニタリングする経営手法です。こういった特性である以上、今の価値観や労働市場の変化などを考えると、これまでの人を起点としたメンバーシップ型の人材マネジメントスタイルよりも、主役である従業員がやりがいをもって臨めるような労働環境を前提とした職務を起点とした雇用・人事管理システムである「ジョブ型雇用(人事制度)」の方が適合しやすいと考えるのが自然です。しかし、多くの日本企業では一気にジョブ型へ転換するのは難易度が高いため、ハイブリッド型などで時間を掛けて導入するのが望ましいと思われます。

③次世代経営人材の育成
次世代の経営幹部を育成するサクセッションプランの拡充は、企業経営にとって最も重要な経営課題の一つですが、投資家にとっても企業の持続的成長を見極め、投資判断を行う上で大変重要なポイントです。人的資本経営を推進する上での重要視点である「経営戦略と人材戦略の連動」を実現するためには、リーダーシップを発揮して経営戦略や企業変革を強力に推進できる真のリーダーが必要であり、そのような人材を輩出するには、通常のOJTや汎用的な育成カリキュラムではなく、骨太の育成プランが必要です。

④株式報酬制度
株式報酬は人的資本投資の手法のうち、処遇改善テーマの一つですが、払いきりの現金報酬とは異なり、株式交付後も株価に連動して資産価値が変動することから、報酬類型によっては投資家と同じ目線で企業価値向上に向き合うことができるため、人的資本投資としては大変有効です。