企業風土変革

企業風土、組織風土という言葉は、ビジネスの現場でもよく使いますが、「企業内、組織内に存在するもののメンバーの目に見える、見えないに関わらず知覚される、組織全体あるいは個々のメンバーの行動や思考に一定の影響を及ぼす一連の規範や価値観、不文律、習慣、慣習」と定義されます。

  • 会社で使っているような独特な言葉や言い回し
  • 一見非効率であっても昔から行っている仕事の進め方
  • 周囲に合わせてしまう同調圧力
  • 非合理的な集団的判断や意思決定、忖度
  • 事なかれ主義、大企業病、隠蔽体質 等

このように外から見れば不思議な現象ですが、風土というものは企業の内部では長年かけて人同士の関わり合いの繰り返し、複雑なプロセスを経て形成されていきます。そして、これらは組織の活性化に繋がるような生産的なものから、組織の停滞を招き、時代に逆行するような非生産的なものまであります。

風土は、ある種の「規範」で構成されていますが、特に問題になるのは目に見えない黙示的な規範です。例えば、仕事の進め方、意思決定のあり方、関係調整の方法、コミュニケーションスタイル、暗黙の了解、阿吽の呼吸など、これらは主に集団形成の初期段階に出来上がり、その頃の価値観や習慣、トップや幹部の申し合わせで組織内に蔓延り、踏襲されたものが多くあります。そして変えようとする勢力に対しては、往々にして軋轢を作ったり、既得権やアンタッチャブルな状況を生み出してしまいます。

一旦こうして出来上がった風土を変えるのは大変難しくなりますが、変革のアプローチとしては、パーパスや理念、バリュー等によって、人の「行動」を方向付けながら、目に見える戦略を示すことによって変革の目的と手段を腹落ちさせ、インセンティブも含めた仕組みの中で行動をサポートすることも有効なアプローチの一つです。

しかし、実際に組織の課題に真正面から取り組み、解決に成功している企業は多くはありません。組織や人の問題はそれだけ難しい問題であるからです。とは言え、先行き不透明な今の時代に難しいからと、問題を先送りできるものではありません。自社がそのような状況であるならば、以下の風土変革を進めるプロセスを参考に、コンサルタントなど外部からの支援の下、進めることをお勧めします。

  • 目的の明確化、風土変革の必要性、ゴールイメージ
  • 危機感の共有
  • 自分たちのありたい姿、問題仮説の設定、ゴール設定
  • 現状把握(インタビュー、サーベイ)
  • 課題抽出、課題解決の仮説設定
  • 変革アプローチの選択、仕組みづくり
  • PDCA

特に、人的資本経営を意識する場合には、先にご紹介しましたが、一人ひとりの能力を最大限引き出し、指示を待つことなく自ら考え主体的に動く「自律型社員」を育て、彼らが会社の方針に沿って自ら動いてチームを引っ張る「自走型組織」を構築することが重要です。

若い社員だからと言って、昔のように「要求されたことを一定以上のレベルでこなせば良い。あとは会社が何とかしてくれる」という指導姿勢では、今の社員には通用しません。彼らは、今は国も企業も当てにならない時代と捉えており、自分たちの将来設計や自己成長、働くことの意義や仕事の意味付け等を真剣に考えているのです。労働需給において売り手市場の世の中ですから、彼らに会社への帰属意識などを期待できません。

したがって、経営者や管理職など現代のリーダーたちは、今の時代背景や社員の思いを深く理解したうえで、彼らの内面からいかに主体性を引き出すかを内省的に捉えなければ企業風土の変革は困難です。しかし、最近の人的資本向上の施策の中でいくつか打開策のヒントはあります。

例えば、会社のパーパスを浸透させるために一人ひとりのMYパーパス(あるいはウィル)を追求させる取り組みなどは、風土改革を進めるうえで有効な切り口の一つと捉えることはできそうです。企業価値の向上を目指して会社のパーパスを実現するのは社員一人ひとりですが、それを自分事として捉えられるかが問われることになるわけですから、社員個人が成し遂げたいこと(MYパーパス)を見つけてもらって会社のパーパスと結びつける活動であり、風土改革には有効です。