人的資本経営においては、持続的な企業価値の向上を図る上で「経営戦略と人材戦略の連動」が最も重要であることは既述の通りですが、実態としてあまり意識されていないのが「企業文化への定着」です。
人的資本経営において、経営戦略と人材戦略の連動を実践していくには、外部人材を積極的に登用したり、内部人材のリスキリングやスキルシフトを進めて、適所適材の人材配置を展開することが必要です。しかし、このような組織改革は、単に理念やビジョンを社内で宣言し、下方展開すれば組織自らが望む方向に動き出すなどといった幻想は禁物です。
具体的な行動に落とし込まなければ、目の前の仕事に精一杯な社員や隠れた抵抗勢力となりがちな管理職層を動かすことは容易ではありません。また、外部から優秀な人材を採用できたとしても、閉鎖的な空気感が蔓延しているような職場風土のままでは、彼らの定着は望めません。既存の企業風土を大きく変えなければ人的資本経営の実現は到底できないのです。
人的資本経営を進める上で、風土変革に向けた重要な3つの施策をご紹介します。
HCM風土変革
➀自律型人材の育成
動的な人材ポートフォリオの推進によって、事業戦略に基づいたあるべき質と量を満たす人材の過不足感が明らかになりますが、これをジョブ型雇用等による外部調達に全て頼ることは、規模的にも時間的にも容易ではなく、どうしても一定数は社内の配置転換で対応せざるを得ません。その場合、対象となる従業員がリスキリングやスキルシフト、配置転換を簡単に受け容れられるかという問題が発生します。そのため、企業側もこれからの人材獲得や育成においては、自己のキャリアや将来を見通しながら前向きに職務を全うし、自身のスキル習得や人間力向上に高い意識を持つ自律型人材を増やすことに注力すべきです。こうした人材であればリスキリングや配置転換も前向きに受けとめることができ、それが仮に自身にとって有益でないと判断すれば、社内公募やFA、転職等も含め、自らの意思で新たなキャリア形成にチャレンジすることができます。
②組織力の強化
そして、人的資本経営では欠かせない組織力です。諸々の施策によって一人ひとりの能力やスキルを高めることで人的資本は向上しますが、個々の力(人材力)が結集すると人材力同士の相乗効果が働き、単なる人材力の総和を遥に超えた組織力を生み出すことができるのです。よりパワーアップした人的資本の塊が企業価値を大きく膨らませる原動力となります。つまり、「組織力=人材力の総和+相乗効果」であり、組織力を生み出すことによって人的資本が更に増強されることになるのです。
③企業風土変革
昨今DX推進の機運が高まる中、テック対応人材を中心とする労働需給の逼迫、また、ネット社会の申し子と言われるZ世代の登場も相俟って、企業内の世代間意識のギャップ、リモートワークの普及による対面コミュニケーションの希薄化等、企業風土に起因する課題に対応する必要性が益々高まっています。これまで見てきた通り、人的資本経営においては、人材育成やエンゲージメント向上の施策が問われるわけですが、自律型人材が活き活きと活躍できる環境を用意できるよう組織風土の変革が肝要です。
以上、人的資本経営の基盤づくりとして、3つのマテリアリティ(重要課題)をご紹介しました。具体的な内容や進め方につきましては、各リンクページをご参照ください。