人的資本経営を実践する上で、人事制度の建付けをどうするかは避けて通れない問題であり、人事関連の諸制度が人的資本経営の成否に関わる部分は少なくありません。それは、人的資本経営では、経営戦略と連動した人材戦略を構築することが前提にあるからです。
ビジネスモデルの転換から事業ポートフォリオを組み換える場合、事業戦略を推進するために必要な人材像と要員数を特定し、新たに描いた人材ポートフォリオから把握した現状とあるべき姿のギャップに基づき、外部採用もしくは内部の配置転換によって必要人材の確保に当たることになります。
この点から人的資本経営では、職務ありきで考えるジョブ型人事との親和性が高いと言えます。もちろん、ジョブ型にも、また対極にあるメンバーシップ型にも各々一長一短はあり、必ずしもメンバーシップ型が人的資本経営に適合しないというわけではありませんが、内部育成を主体とするメンバーシップ型では上述の職務と要因のギャップを埋めるには相応の時間を要してしまうことから、VUCAと称される今のように変化のスピードが速い時代には、ジョブ型の方が戦略的に有効性が高いと言えるのではないでしょうか。
一方で、これまでメンバーシップ型の雇用や人事制度を運用してきた多く日本企業では、即座に全面的なジョブ型に移行することは困難な部分が多い状況ですが、管理職や専門職を対象に社内外の公募制を採用し、部分的なジョブ型雇用を採り入れる企業も現われています。
若いうちから専門性を磨き上げるべきだという考え方と、新卒入社後10年ほど30代前半頃までは様々な業務を経験しながら本人の志向と適性を見極めた上でキャリア形成の方向を固めていく方が望ましいとする考え方もあるため、大きな方向性としてはジョブ型制度への転換を志向しつつも、現実的には日本の雇用文化にも配慮したハイブリッド型制度を選択する企業が増えるものと思われます。