賃上げ促進税制

岸田政権の新たな注目施策の一つとして賃上げ促進税制があります。これまでにも、賃金を上げた場合の租税優遇措置はありましたが、今回の賃上げ促進税制は破格の内容と評される内容となっております。

ただ、未だ経済産業省や中小企業庁からは税制の概要しか公表されておらず、今後、租税特別措置法等が成立し制度内容が確定するまでに施策内容が変更となる可能性は排除しきれませんが、現時点でほぼ判明している情報に基づいて税制骨子及び具体的な施策への展開についてご説明いたします。

現行及び新たな税制ともに、大企業向けと中小企業の2つの制度がありますが、ここでは特に改正の前後で優遇措置が拡大された中小企業向けの新たな賃上げ促進税制の内容と活用のポイントについて解説します。

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賃上げ促進税制の概要(中小企業向け)

概要は上図の通り、当期黒字で法人税が課税される中小企業等が、適用要件を満たした場合に、税額控除の対象となります。

●適用対象:青色申告書を提出する中小事業者等(※1)
●適用期間:2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する各事業年度
●税額控除:賃上げ額(※2)の最大40%(ただし、法人税額の20%が上限)

※1)中小事業者とは、租税特別措置法における以下の要件を満たす「中小事業者等」を指します。
  ・資本金1億円以下の法人(ただし、一定割合以上を大規模法人に所有されていないこと)
  ・資本金を有しない法人(医療法人等)のうち、従業員が1,000人以下の法人
※2)賃上げ額とは、全ての国内雇用者に対する給与等支給額について、適用年度の給与等支給額から前年度の 
   給与等支給額の全てを控除した額を指します。

税額控除額の試算

売上規模別、業種別に標準的な企業の税額控除額がどの程度想定されるのかを試算したのが下表になります。
尚、下表モデルは、人件費≒給与費、税前当期利益額≒法人所得とし、利益率を一律6%に設定していること、実際には多種多様の結果となることをお含み置きください。

上表試算の年商100億円製造業であるモデル企業の場合、税額控除で得た28百万円のキャッシュは、通常の事業活動において同額の利益得たのと同じことであり、当企業がそれだけの利益を上げるには、4.6億円の売上増を達成しなければならず、今回の賃上げ促進税制のインパクトが大変大きいことが分かります。

賃上げ促進税制対応の留意点

中小企業向けの賃上げ促進税制において、例えば最大40%の法人税額が控除されるケースとは、雇用者全体の給与等支給額が前年度比2.5% 以上増加し、更に教育訓練費が前年度比10%以上増加した場合です。つまり、究極的には、全ての社員対して2.5%の賃上げを行い、教育訓練費を10%増加すれば良いことになります。

しかし、実際の組織マネジメントにおいてそのようなことは有り得ないのではないでしょうか。社員の中にも新人・中堅とベテラン社員や再雇用社員、一般社員と管理職、正規社員と非正規社員など、または仕事の習熟、職務自体、社内役割、育成方針やライフステージなどで、分配すべき賃金原資の額は大きく異なり、貢献度や期待度によって分配に差をつけるのが本来のあり方であるはずです。

さらに言えば、分配方法も賃金のベースアップで行うのか、人事評価結果を反映する昇給で行うのか、賞与だけで還元するのか、給与所得の扱いとなる前払い退職金や確定拠出年金掛け金の形として払うのかなど、様々な方法が考えらます。

あるいは税制優遇の要件として、中小企業の場合は大企業とは異なり、継続雇用者のみが対象である必要はなく、雇用者全体の給与等支給額であることから、新規雇用に加えて派遣社員や外注請負などを社員化したり、定年後再雇用者の継続雇用年齢を引き上げたりすることで2.5%要件のハードルを下げることが可能になります。

また、新たな賃上げ税制は、2022年4月1日以降に開始される事業年度からの適用となりますので、最速で3月末日に決算を迎える企業が2022年4月1日から始まる事業年度から適用開始となり、翌2023年3月末日の決算の申告所得額及び雇用者全体の給与等支給の増加額によって税額控除が決定されることになります。

その場合、3月決算の企業は、4月乃至6月までの昇給を行うケースが多いため、昇給額分が年度末の給与等支給増加額に反映されることになります。従って、2023年3月決算で税額控除の適用となるためには、当該年度が開始となる2022年4月昇給に税制優遇措置を織り込んだ改定作業を行う必要がありますので、給与テーブル等の改定作業やシミュレーションに早急に着手する必要があります。もし、昇給で反映させない、あるいは間に合わないということになれば、夏季・冬季・期末などの賞与に反映させるか、ややイレギュラーな扱いになりますが、2022年10月などに半期の昇給を実施するなどが考えられます。(下図参照)

さらに別の視点でも注意すべき点があります。賃上げ促進税制による優遇措置は、今後延長の可能性もありますが、現時点では2年間限定での発効となるため、期限が失効した際には賃上げのペースダウンあるいは停止させたりすると、以降社員のモチベーションダウンを引き起こしたり、手法によっては不利益変更の懸念が生じる可能性もありますので、給与を含めた賃上げを行うのか、賞与のみで行うか、あるいは別の方法で賃上げ要件を満たすのかなど、自社の業績見通しや人事や人材育成のポリシーとの兼ね合いの中で決める必要があります。

コンサルティングのポイント

賃上げ促進税制は、税額控除額の大きさからも中小企業にとって経営改革、特に組織マネジメントの基盤固めを行う上で、大変利用価値の高い措置です。資本金や従業員数の制限はありますが、黒字見通しの立つ企業様であれば積極的に税務申告を行って控除税額分を賃金関連制度の充実を図ることに充当し、有意義で実りある賃上げと社員に対して強力なメッセージを発信することで社員の士気向上と人材力の強化を図るべきです。

当社では、賃上げ促進税制による破格の節税効果を賢く利用し、社員の待遇改善とやる気の向上を実現しようとする企業を全面的にサポートいたします。税制優遇措置を足掛かりとしてクライアントの業績拡大とマネジメントを好循環に導きます。

下図の通り、当社がコンサルティングのゴールに設定するのは、次の4つです。

●コストを極力抑え、社員の給与アップを実現すること
●社員モチベーションの向上に導かれる会社業績の向上
●貢献度や期待度に応じた報酬配分と離職率の低下
●採用活動では魅力的な条件提示によって有能人材を獲得する

この機会を逃すことなく、この賃上げ促進税制を活用し、社員の処遇改善やマネジメント改革に早急に取組むことをお勧めします。