病院経営

以下は、新型コロナ感染症拡大によって影響を受けた病院に対しての経営立て直しに関する提言です。

病院経営へのコロナ禍の影響

新型コロナウイルス感染拡大により病院経営は大変厳しい状況に直面しており、日本病院会ほかによる「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第4四半期「概要版」)」(※)に拠れば、コロナ患者の受入の有無に拘らず、多くの病院で入院患者数、外来患者数、救急受入件数が減少し、2020年度医業収益(除・支援金等)は、2019年度対比で4.3%ポイントの減収、医業利益率もマイナス6.1%となりました。

更に2020年度の医業費用は2019年度とほぼ同水準であったものの、全体費用のおよそ5割を占める給与費が0.7%増加となり、コロナ禍による人材確保や人員配置の困難さを表すものとして、前述の収益力の低下と並び、人件費負担は病院経営に深刻な影を落としています。

今後コロナ感染は、ワクチン接種の拡大や治療薬の開発、病床数拡大等による対応が進む一方で、新たな変異ウイルスの発生も懸念されることから、完全な収束を見通すことは難しく不透明な状況は暫く続くものと思われ、病院現場ではコロナ感染拡大以前の患者行動や収益環境を取り戻すことが容易でないことは想像がつきます。
また、感染状況が一定程度に落ち着けば、これまで経営の支えとなっていた公的な支援金や慰労金の支給打ち切りも予想されるため、病院経営の収益環境は一層厳しさを増すことが懸念されます。

(※)新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第4四半期)-〔概要版〕- (ajha.or.jp)

患者数減少の背景

上記の通り、実際コロナ禍によって医業収益が減少した病院が多く存在する中、その対策を打つに当たってまず取り組むべきはどのような患者が減ったのかを正確に分析することですが、分析に用いるフレームワークとして、患者の「重症度」と「緊急性」によって4つのタイプに分類し、どの象限に分類される患者が最も減少したのかを把握するところから始めます。

そうすると減少が顕著なのは、症状の「重症度」が低い患者であり、更にちょっとした腹痛、頭痛、発熱など「緊急性」の低い患者の多くが受診を控えていることが分かります。不要不急の外出を控えるよう行動の自粛が強く求められる中、病院待合室など混雑した空間の感染リスクが懸念されたことから、症状が軽いため受診を控えた患者が増加したものと見られます。また、重症度が高くなくとも、緊急性は必ずしも高くもない癌や整形の予定手術や健診なども先送りするケースも少なくないと思われます。

もう一つの背景として、コロナ禍に拘らず高齢化の進展や若年層人口の減少、さらには病診連携の促進など医療政策が奏功したこともあり、病院の外来患者数は2025年頃がピークを迎えると予想されておりましたが、今般のコロナ禍によりその減少ペースに拍車がかかったとの見方もあります。
全国では既にピークを過ぎている地域もありますが、特に都市部を中心にコロナ禍で軽症患者の受診行動が変化し、外来患者数のピークが2025年より前倒しの動きに転化している可能性が高いと言えます。

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経営の立て直しに即効性の高い施策を考える

このように経営に逆風が吹く中で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、既に集患や増収のために何らかの取り組みを行っている病院は多くあります。

例えば
●外来患者の減少をカバーするべく在宅医療の提供体制を強化する
●定期的な検査や栄養指導の実施や新たな報酬算定により診療単価を高める
●院内感染対策の一環と一般外来の落ち込みをカバーするため発熱外来を開設する 等
他にも
「院内の感染対策を動画等でPRする」「DMや電話で来院を促す」「オンライン診療を始める」「紹介促進にために関係先へ積極的に営業活動を行う」等、地道に患者数の回復に取組んでいる病院もあります。

コロナ禍では外来患者の落ち込みが顕著である場合が多く、前述の通り長期の構造的トレンドとしてそもそも外来患者数の減少が進んでいた中でもあり、このような立て直し策を講じてもなかなか従来の水準に回復するのは容易ではなく、特に重症度も緊急性も高くない患者を早急に呼び戻すには相当な時間を要すると思われます。

そのような背景も考え合わせると、コロナ禍の影響により大きなダメージを受けた病院の経営を立て直す上で即効性のある具体策としては、上記の集患や増収策による収益回復に地道に取り組みつつも、外来を中心とする費用の適正化を強力に推し進め、病院全体の収益性を高めることが優先すべき事項であると言えます。

現在支給されている公的支援金の先行きや来年に控える診療報酬の見通し等も踏まえると、今コロナ禍で毀損した病院経営に求められているのは経営体質の改善を早急に進めることであり、具体的には、次の3つの施策を進めることが即効性が高いと考えます。

➀外来診療の効率化
②職員人件費の適正化
③労働生産性の改善

外来診療の効率化

外来診療の改善において、患者数の増加や診療単価アップなど収益面での向上策はもちろん有効ですが、前述の通り、コロナ禍が患者の受療行動自体に変化をもたらし、感染症拡大の先行きも不透明な状況の中では、早期に効果を期待しにくい打ち手であることは否定できません。

一方、外来診療の費用面に目を転じてみると、人件費や委託費については適正化を進める余地があることが分かります。以前から病院の外来患者数のピークが近々到来することが取り沙汰されてきた中、外来診療の効率化がほとんど進んでおらず、そのため人件費の硬直化が発生していることが指摘されてきました。

このような状況に陥り、外来部門の人件費構造を見直すことで確実に収益性を向上できる病院も少なくないのではないでしょうか。外来には非常勤の医師や看護師やコ・メディカルなど調整しやすい人材配置も多く、診療科別の採算性や地域のニーズも検証しながら、非常勤医師や看護師の集約を進めることで1割から2割の人件費や委託費を削減することも可能と思われます。

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職員人件費の適正化(年功的賃金体系と人事評価制度の見直し)

(1)年功的賃金体系の見直し

先行きが不透明な中、病院の収益性を改善するためにまず着手すべきは、職員の給与体系の見直しを行い、給与費構造において業績との連動性を高めることです。コロナ禍で受けたダメージや診療報酬改定、公的支援金の動向なども経営に大きく影響するため、収入面を主体的に改善することは容易ではありませんが、費用については緊急事態であっても主体的に取り組むことが可能です。特に費用の半分を占める給与費の構造を細部にわたって見直しを図り、変動費化を進めることが収益性改善の特効薬に成り得るのです。

今後の先行き不透明な時代を生き抜いていくために、具体的には育成ステージとなる若年世代を除いて年齢や勤続などにリンクする年功的な賃金体系から脱却し、職務、職責、成果など、与えられた役割達成度や実力を処遇する給与体系に移行すること、併せて今般のコロナ禍のような突然の環境変化にも耐えられるよう、給与体系も含めて人件費全体について適正化を図る必要があります。

もちろん賃金や給与というものは人のモチベーションに直接的に関わる処遇であり、経営サイドのロジックだけで解を生み出せるものではありません。地方病院であれば都市部と比較すれば医師の採用も困難を極め、高額な給与をオファーして一本釣りしなければ採用できない、あるいは看護師についても引き抜き防止の目的で給与が高止まりしている状況も受け入れざるを得ない等の背景もあると思います。従って、「労働の対価」「生活に対する保障」「労働需給や市場価値の状況」の3つの要因を分析検討を行ったうえで、職員にとって遣り甲斐が感じられ、チーム医療に貢献できる報酬配分に配慮することが必要です。

上記内容を実行するために、弊社では次の4つを給与体系の改善のポイントとして考えております。

 ①キャリアステージの明確化とミッションジョブグレードの導入
 ②管理職向けジョブ型給与の導入を始めとするステージ別給与ポリシーの明確化
 ③医師を始めとする各職種に対する組織貢献を促す業績指標の設定
 ④業績影響を最小限に抑えるポイント制給与の導入

(2)人事評価制度の整備

加えて、給与制度を適切に運営するために、医師も含めて人事評価制度を整備することが重要です。
病院は評価制度の運用が難しいと言われますが、

「そもそも非営利事業であるため収益目的のために個人や組織を評価することが馴染まない」
「病院の経営者や幹部が組織や人材のマネジメントに関心が薄い」
「専門職の集合体であるため、他人からの評価を嫌う、公平な評価ができない、部下を育成する意識が低い」「雇用の流動性が高いため評価結果に不満を持つと転職が起きやすい」

など、特に組織や人材の特性に起因する理由が挙げられます。

しかし、病院経営の先行きが不透明で厳しさを増す時代にこそ、経営の効率化を追求し、患者満足を高めるためのチーム医療を始めとする組織づくり、職域を超えた役割分担の推進、そして個の能力を高めることが求められるのではないでしょうか。そもそも医療サービスとは高度な専門性を有した医療従事者が生み出す価値の集合体と表現できますが、その価値を最大限高めるためには、トップが明示する期待職員像を職員と共有し、そのレベルに向けて個々の職員が自らをレベルアップさせて初めて実現することであり、期待職員像の共有とレベルアップを具体的にフォローする仕組みが人事評価制度であると言えます。

特に評価制度に対して医師が抱く抵抗感は強く、マネジメントを受けることに嫌悪感を覚える医師も多いのが実情です。もちろん、医師は病院経営に対する貢献度が最も強いのは事実ですが、一方で個々の格差も最も大きい職種であることも事実であり、そこに対して高額な賃金を払っているからこそ、経営としては個々の組織貢献度と役割達成度を適切にチェック、評価しなければなりません。しかし、そこには医師の専門性を他者が公平かつ客観的に評価できるかという問題が立ちはだかるわけですが、多面評価の導入や業績評価指標の選択など評価の手法を工夫することで可能になることもあります。

病院経営を取り巻く環境が厳しくなろうとも、今後診療報酬が大幅にアップされるようなことも支援金や協力金の支給が未来永劫続くことは有り得ません。ならば、病院経営が目指すところは、依然変わらず患者満足を獲得するために戦略を組み立て、病院の将来あるべき姿の実現に向けて、全ての職員が期待人材像に向けてレベルアップを努力することであり、そのフォローアップには人事評価制度の整備が不可欠です。

労働生産性の改善

総人件費や給与水準の適正化に続き、単位労働あたりの生産性を評価する必要があります。つまり職種あるいは現場別に今配置している人数が適切かどうかの実態と課題を分析します。前述の通り、医師や看護師の給与水準については地域ごとの需要動向など様々な要因によって制約を甘受せざるを得ない状況もありますが、生産性については地域等の特殊事情はそれほど考慮する必要はなく、ベンチマーク指標や施設基準に基づいて分析評価することが可能となります。例えば職種別に生産性を評価する場合に、医師、看護師、コ・メディカルの一人一日あたりの患者数や収益額でベンチマーク分析を行い、生産性の客観的評価を行うことができます。

このように病院の職種別の生産性の実態と課題を可視化できたら、具体的な労働生産性の改善策を考えていきます。手順としては以下のステップで進めていくことが必要です。

①管理職に対する啓蒙教育(生産性向上の意義・必要性、達成イメージ、組織マネジメント強化)
②スタッフに対する問題意識の共有促進(生産性向上の目的、成果達成イメージ、インセンティブ)
③現場改善(多能化、削減業務の見える化、業務分析による効率化、標準化、分業化、会議運営の見直しほか)